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静岡地方裁判所浜松支部 平成9年(ワ)174号 判決

原告

有限会社山正浜松ガス

右代表者代表取締役

山口正二

右訴訟代理人弁護士

石田亨

被告

渡辺勝隆

右訴訟代理人弁護士

佐々木成明

佐々木右子

主文

一  別紙物件目録記載の建物が原告の所有であることを確認する。

二  別紙物件目録記載の土地につき、原告が建物所有を目的とする借地法所定の賃借権を有することを確認する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

(甲)  申立

(原告の請求の趣旨)

一  別紙物件目録記載の建物が原告の所有であることを確認する。

二  別紙物件目録記載の土地につき、原告が建物所有を目的とする借地法所定の賃借権を有することを確認する。

(被告の答弁)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

(乙)  主張

(原告の請求原因)

一1  別紙物件目録記載の建物(以下、本件建物という。)は昭和五八年原告会社が建築したもので、原告会社の所有である。

(一) すなわち、別紙物件目録記載の土地(以下、本件土地という。)上には従前から建物(以下、従前建物という。)が存在していたが、原告会社は昭和五八年にその建物のC型軽量鉄骨の柱骨だけの残置されていたものを利用して建て直したものである。

原告会社は、右C型軽量鉄骨の柱も一新して建築したかったのであるが、建築を請負った引佐建設から建物新築の確認許可が出ないから軽量鉄骨の骨組みだけでも利用しないと建築できない旨の説明があった。

したがって、既存のC型軽量鉄骨を利用することとなったもので、建築確認申請をしないまま工事がなされたものであって、屋根も周壁も土間も内部設備もすべて原告会社が新たに建てつけたものである。

したがってまた、本件建物は登記できずに現在に至っている。

(二) 本件建物の建築後間もないころ、浜松市が固定資産税を原告会社に賦課するに先立ち、被告側に柱のことを問い質したところ、柱の所有権は放棄しているとのことであった。

(三) 建築費として原告会社が支出した金額は金一三八五万六〇〇〇円で建坪は約五〇坪であるから坪当たり約金二八万円となり、昭和五八年当時のガス器具などの展示店舗としてはかなりの建築費用である。

(四) 以上のとおりであるから、原告会社は従前建物の軽量鉄骨の骨組みだけを利用したのであるから、従前建物は、ちょうど建前が終わっただけの屋根も周壁もない独立の不動産とはいえない建築途中の建物と同視すべき状態にあったから、加工に関する民法第二四六条第二項を適用して、本件建物は原告の所有であることになる(最高裁昭和五四年一月二五日第一小法廷判決参照)。

2  予備的に、昭和五八年原告会社は本件建物を建築してより占有を継続している。

よって、時効期間が経過し、原告会社は本件建物の所有権を時効取得したというべく、原告会社はこれを援用する。

二1  別紙物件目録記載の土地(以下、本件土地という)は被告の所有であるが、地上に本件建物が存在し、建物所有の目的で賃料月額金五万円の地代が支払われている。

したがって、本件土地には借地法の適用を受ける賃貸借契約が存在している。

2  予備的に、本件土地につき借地法の適用を受ける賃貸借契約が存在している事実状態が継続し、原告はこの借地権を時効取得したというべく、原告会社はこれを援用する。

三  被告は本件建物の所有権を争い、かつ、右賃貸借契約の存在を争うので、その各確認を求める。

(請求原因に対する被告の答弁)

一1  請求原因一項1(一)ないし(四)を否認する。

被告側は、柱の所有権を放棄するなどと浜松市に言明したことはない。

2(一)  従前建物は軽量鉄骨造スレート葺平屋建工場であって、浜松市が市街化調整区域に関する都市計画決定をした昭和四七年一月一一日当時すでに存在していた。

したがって、改装時の昭和五八年ころ、原告会社の依頼さえあれば、地権者である被告側が、本件土地は右線引当時すでに宅地であった土地としていわゆる既存宅地の確認申請をすれば、確認のとれる土地であった。

したがってまた、引佐建設は原告会社から本件建物の改装を依頼された際、原告会社主張のような説明をするはずはないし、してもいない。

また、被告側は、借地人と称する原告会社から既存宅地の確認申請の依頼ないし承諾を求められたことはない。

(二)  また、本件改装は、本来ならば建築確認を得る必要があり、既存宅地の確認も出来たはずであるが、原告会社は出来るだけ安い価格で改装しようとしたため、建築確認を得なかったというにすぎない。

そして、建築確認を得ていない建物であっても、原告会社が本件建物の表示登記および保存登記をしようとすれば、引佐建築の工事証明書、工事代金の領収書、固定資産税の課税証明書さえあれば、いつでも可能であった。にもかかわらず、原告会社は今日にいたるまで右登記を了していないのである。

3(一)  もともと本件土地上には従前建物である軽量鉄骨造スレート葺平屋建工場が存在し、これは被告の亡父である渡辺光義の所有であった。

従前建物はもと被告の実弟が同建物で自動車修理工場を営んでいたが、同人が昭和四八年に死亡したため、渡辺光義が鈴定自動車に対し、同じく自動車修理工場として昭和四八年八月から昭和五六年末まで賃料月額金七万円で賃貸していた。

渡辺光義は昭和五五年六月一五日死亡したが、その後、被告の実妹である小川壽鶴代の夫の小川勉が原告会社の役員として、また、小川壽鶴代も原告会社の事務員兼配達員としてそれぞれ入社したため、原告会社があらたに従前建物を賃借することとなった。

(二)  ところで、原告会社は、昭和五八年暮引佐建設に従前建物を改築させた。すなわち、面積、鉄骨、基礎は全く同じのまま、建物前面の庇を張り出し、ショーウィンドーを造り、内装、土間等を改築したものである。

本件建物の固定資産税については、原告会社から小川勉に対し相談があった。しかし、渡辺光義死亡後八人の兄弟姉妹間で遺産分割が円満に進まず、従前建物およびその敷地である本件土地の所有権の帰属が決まらなかったり、納税名義人も直ちに決められなかったことなどから、本件建物は賃借していた原告会社にとりあえず納税して貰うこととなった。

しかし、被告および兄弟姉妹としては、あくまでも本件建物の所有権は被告側にあるという考えから、原告会社に対し、本件建物の保存登記だけは原告会社名義にしないようにと厳重に申入れた。原告会社もこれを了として、本件建物は未登記のまま現在に至っている。

(三)  以上の経過から、浜松市の家屋台帳には、原告会社が所有者として登録されてはいるが、これのみをもって原告会社が所有権を有することにはならないというべきである。

原告会社の本件建物の改装部分は、構造上従前建物に附着合体し、これを分離復旧することは事実上不可能であり、従前建物と一体となって利用され、取引きされるべき状態であるから、右部分は従前建物に附合したものというべく、したがって、本件建物は全体として被告の所有に帰すものというべきである。

(四)  仮にそうでないとしても、従前建物はいわば改装工事により再び建物の域に達する中間的段階にあったにすぎないのであるから、これを民法第八六条第一項の定着物とみて不動産と認めるべきである。

そうすると、同法第二四二条にしたがい、少なくとも未だ建物とは認められない工作物を土地と独立の不動産たる建物の程度に完成させた限度においては、附加した物自体は社会経済的に看てもはや独立して所有権の目的となりうるものとはいえず、原告会社がそれらの物に対する所有権を留保する余地はない。

したがって、原告会社の工事により附加された物は、不動産たる既存工作物に従として附合し、その結果完成した建物自体の所有権が既存工作物の所有者である被告に帰属するに至ったものというべきである(最高裁昭和三四年二月五日第一小法廷判決参照)。

二  請求原因一項2を否認する。

占有における所有の意思は、内心の意思によるものではなく、占有を生ぜしめた権原の性質によって決定されるものである。

しかるに、本件では、所有の意思をもってする占有を取得する原因たる事実、すなわち、売買、贈与などの事実はない。

三  請求原因二項1のうち、本件建物が被告の所有であることを認める。その余を否認する。毎月被告が受領している金五万円は地代ではなく家賃である。

四  請求原因二項2を否認する。

原告会社と被告側との間には、地代月額金五万円とする建物所有目的の借地契約はなんら存在しないうえ、月額金五万円の賃料も地代として授受されたわけではないから、賃借意思が客観的に表現されていたとはみられない。

五  請求原因三項を争う。

(被告の抗弁)

本件土地につき、原告会社の賃借権の時効取得の主張に対し、請求原因に対する被告の答弁一項2(一)および(二)で述べた事情があるので、原告会社には当初から悪意ないし有過失である。

(抗弁に対する原告の答弁)

否認する。

(丙) 証拠

記録中の書証目録および証人等目録記載のとおりである。

理由

第一、本件建物の所有権の帰属につき争いがあるので判断する。

一  証人森下芳昇、同小川勉の各証言は、成立に争いのない甲第六号証の一ないし一〇、同乙第一号証の二ないし五、証人小川勉の証言によって成立の認められる乙第一号証の一を併せて考慮すると、

1  本件土地上には、亡渡辺光義が建てた従前建物である軽量鉄骨造スレート葺平屋建工場が昭和四四年ころには既に存在しており、同人が昭和四八年八月ころより自動車板金業を営む鈴定自動車に家賃月額金七万円(後に金八万円に改訂)で賃貸していたものであるが、

2  亡渡辺光義が昭和五五年六月一五日死亡してより、被告や小川勉の妻の小川壽鶴代など亡渡辺光義の相続人の間の誰に本件土地および従前建物を帰属させるかという遺産分割の協議が決まらないうち、従前建物は原告会社に貸す話が持ち上がり、亡渡辺光義の長男の渡辺誠の承諾の下に小川勉が交渉して従前建物を原告会社に貸すことと決まったこと、

3  しかし、原告会社は従前建物を改装したいとの意向であったため、小川勉において引佐建設を紹介したこと、

4  原告会社は自ら頼んで設計して貰った設計図を基に引佐建築に改装を依頼し、同建設会社はなるべく安く仕上げたいという原告会社の希望に沿い、また、被告側よりまだ相続の帰属が決まらない段階であるので、原形のままに改装して貰いたいとの意向も汲んで、

(一) 従前建物の庇の柱と壁を少し外装のため外に出して柱二本を加えたほかは、従前建物の基礎をそのままに使い、屋根はそのままにして外壁を取り外し天井の内装を行ったが、途中原告会社の希望を入れて屋根を葺き替え、土間の上にコンクリートを張り足して仕上げたこと、右工事の着手から完成までは僅か一ヶ月ほどであったこと、

(二) 引佐建設は右賃貸借につき、やがて原告会社の役員として入社する小川勉の依頼により家賃の交渉にも入り、家賃を月額金五万円に押さえ、固定資産税については原告会社の方で負担することに決まったこと、

というのである。

二  右に反し、原告会社代表者山口正二は、前掲甲第六号証の一ないし一〇を併せ考慮すると、

1  従前建物はすべてぼろぼろであって、方々に穴があき、使用に耐えないのでC型の柱二本を残し、原告会社は本件土地上に金一三〇〇万円強の費用を費やして、昭和五八年に一ヶ月半か二ヶ月を要して本件建物を建てた。

2  爾来、本件建物は原告会社の所有として会計処理をし、固定資産税が原告会社に課税されている、

3  本件建物改築後一年を経たころ、浜松市において本件建物の固定資産税および不動産取得税を誰が負担するかということを被告側に相談したところ、従前建物の柱は放棄するので固定資産税は原告会社の方で支払って欲しいとの回答であった、

4  本件土地は被告側の所有であるから、原告会社は爾来地代として月額金五万円を支払い続けている、

5  従前建物の柱を利用し、基礎もそのままに使われているが、屋根部分と壁部分の張り替えを原告会社において行い、本件建物の前のショーウィンドーの部分、すなわち、庇の張り出し部分は従前建物よりも本体面積が増えている、

というのであり、原告会社の監査役をしていた証人大石欽之助も、会計処理につき右に副う供述をしている。

三  以上の各供述を踏まえて判断すると、

1(一)(1) 確かに本件建物は従前建物の柱を二本ばかり残し、従前建物の基礎の上に建てられたものであって、前部分の庇が出っ張り、殆どの出費が原告会社においてなされている。

(2) そして、原告会社の会計処理上は原告会社の固定資産として計上されており、固定資産税も原告会社において支払ってきていることが証人大石欽之助の証言によって成立の認められる甲第二、第四号証によって認められ、また、原告会社において本件建物の減価償却を行っていることが原告会社代表者山口正二尋問の結果によって成立の認められる甲第七、第八号証によって認められる。

(二) しかしながら、右(1)および(2)をもって直ちに本件建物が原告会社の所有であると断定することは出来ない。けだし、

(1)  会社会計処理は原告会社内部の事柄であるし、

(2)  小川勉より本件建物の保存登記はしないで欲しいとの申入れがあったことであるし、

(3)  浜松市が市街化調整区域に関する都市計画決定をした昭和四七年一月一一日当時従前建物はすでに存在し、したがって、改装時の昭和五八年ころ、原告会社の依頼さえあれば、地権者である被告側が、本件土地は右線引当時すでに宅地であった土地としていわゆる既存宅地の確認申請をすれば、確認のとれる土地であったこと、また、本件土地が既存宅地であることの確認も出来たはずであるのところ、原告会社は出来るだけ安い価格で改装しようとしたため、建築確認を得なかった、そして、建築確認を得ていない建物であっても、原告会社が本件建物の表示登記および保存登記をしようとすれば、引佐建築の工事証明書、工事代金の領収書、固定資産税の課税証明書さえあれば、いつでも可能であったことの被告の主張に副う証人森下芳昇の証言もあり、事実原告会社代表者山口正二の供述を検討するも、原告会社においてそのような措置を採った形跡は見あたらないからである。

(4)  さらにまた、浜松市の家屋台帳には、原告会社が所有者として登録されてはいることが成立に争いのない甲第一号証によって認められるが、この記載は課税の対象物と課税者を特定するにすぎず、権利関係の帰属を示すものではないから、これのみをもって原告会社が所有権を有することにはならない。

(5)  柱の所有権を被告側が放棄した旨の前記供述もにわかに措信し難い。

2(一) しかしながら一方、

(1)  本件建物の保存登記をしないで欲しい旨の小川勉の原告会社に対する申入れが、単に登記をしない旨の申入れに止まり、その実質的な権利関係をも変更しない、すなわち、本件建物の原告会社の所有権放棄を意味させる旨の申入れとは断じ難く、

(2)  月額金五万円についての認識も、原告会社において地代として処理し、被告側においては家賃と考えており、そこに認識の齟齬があり、被告側としても地代家賃名目で受取っていた旨の証人小川勉の供述に看られるとおりの曖昧さがあり、お互いの信頼で始めたことなので、まさかこうなるとは思わなかった旨の同証人の供述はこのことを示すものといわざるを得ない。

証人大石欽之助の前記一4(二)に副う供述も、仲介の衡に当たった同証人に果たして地代ないし家賃の明確な認識があったかどうか疑わしいのである。

(3)  また、建築確認をしなかった、本件建物の保存登記をしなかったことをもって、原告会社が所有権を取得する意思がなかったことを示すことにはならない。けだし、それだけでは、原告会社の意図は出来るだけ安価で改築をしようとする意思があるにすぎず、それ以上を出ないと思われるからである。

四  結局、本件建物の帰属は、(1)原告会社の主張する加工に関する民法第二四六条第二項を適用すべきか、(2)被告の主張する、(イ)構造上従前建物に附着合体し、これを分離復旧することは事実上不可能であり、従前建物と一体となって利用され、取引きされるべき状態であるから、右部分は従前建物に附合したものというべく、したがって、本件建物は全体として被告の所有に帰すものというべきであるとするか、(ロ) 従前建物はいわば改装工事により再び建物の域に達する中間的段階にあったにすぎないのであるから、これを民法第八六条第一項の定着物とみて不動産と認めるべきであって、同法第二四二条を適用すべきかにかかる。

1(一)  原告の援用する最高裁昭和五四年一月二五日第一小法廷判決(昭和五三年(オ)第八七二号事件)はつぎの内容である。

(イ) 甲は建物建築を某建築会社に請負わせ、乙はこれを下請してこれに着手し、棟上げを終え、屋根下地板を張り終えたが、元請会社が約定請負報酬を支払わなかったため、その後は屋根瓦も葺かず、荒壁も塗らず工事を中止したまま放置したままであったところ、(ロ) 甲は元請契約を合意解除し、丙建設会社に対し、建築中の建物の所有権は甲の所有に帰する旨の特約のもとに建築を続行させ、(ハ) 丙建築会社は乙の工事中止の仮処分の執行があった日までにこれを未完成ながらほぼ完成した独立の不動産とした、(二) 右工事に要した費用は甲が金四一〇万円強に対して乙が金九〇万円弱であるという事案につき、民法第二四二条第二項を適用して所有権の帰属を決するに当たっては乙のした建前が独立の不動産としての要件を具備した時点の状態に基いてではなく、前記工事中止の仮処分の執行があった日までに仕上げられた状態に基いて右(ニ)の費用の比較によるというのである。

(二)  被告の援用する最高裁昭和三四年二月五日第一小法廷判決(昭和三一年(オ)第四〇七号事件)はつぎの内容である。

(イ) 甲は木造二階建アパートの一区画の区分所有権を有するところ、この部分を店舗に改装して他に賃貸するため、造作を取り外し、壁等も大部分を取り壊し、旧建物はアパート二階を支える柱十数本、基礎工事、ひさしや壁の一部が残存するのみとなったところ、(ロ) 乙は甲との間で右状態のまま周囲の壁、床張り、その他の造作を自費で取り付け、店舗として使用するとの約で賃貸借契約を締結し、(ハ) 乙は自費で約二坪を拡張したほか、壁、土間コンクリート、内部造作等の工事をしてこれを完成した事案につき、民法第八六条第一項により既存工作物は本来家屋たりしものの骨格であるとともに将来家屋たるべきものの骨格をなし、土地に定着するものであるから、それ自体一の不動産とし、乙の工事により附加された物は右既存工作物に従として附加された動産であるとして、民法第二四二条を適用して甲の所有権を肯定したというのである。

2  したがって、本件にあっては従前建物が独立の不動産として維持されていたかどうかにかかる。

民法第八二条第一項にいう土地の定着物とは、土地に固定的に付着して容易に移動しえない物で、取引上継続的にその土地に付着せしめた状態で使用されると認められる物をいい、これには三つの類型があるとされている。すなわち、(イ) 土地とは独立の不動産と看られる物である建物、(ロ) 石垣、テレビ放送用等の鉄塔、溝渠、沓脱石などのように付着された土地とは別個独立の物とはされていないもの、(ハ) 樹木のように原則的には右(ロ)の場合と同様に取り扱われるが、取引上の慣行にしたがい土地に付着したままで土地とは別に独立した権利として扱うこともできる物、というのである。

本件では、本項一4のとおり従前建物の原形のままに改装して貰いたいとの被告側の意向があったにせよ、本項三1(一)(1)のとおり本件建物は従前建物の柱を二本ばかりを残したものにすぎないことが証人森下芳昇の証言、および原告会社代表者山口正二本人尋問の結果によって認められるのであって、本項一4(一)のとおり引佐建設が途中原告会社の希望を入れてその出費のもとに外壁を取り払って屋根をも葺き替え、土間の上にコンクリートを張り足して本件建物が仕上げられたことは、被告側の意向を無視した原告会社の態度とはいえ、右二本ばかりの柱を残すのみとなった従前建物は建物としての、つまり独立の不動産としての存在を失い、その敷地たる土地の定着物(右(ロ)の類型)となったにすぎないというべきである。

前記1(二)の事例においては、旧建物はアパート二階を支える柱十数本、基礎工事、ひさしや壁の一部のみが残存するのみとなったにせよ、右(ニ)の事例では未だ取引上一個の建物と看做されているのであって、本件の場合はそれ以上に取り壊されているものといわざるを得ない。けだし、前記1(二)の事例においては、旧建物は右残された十数本の柱がアパート全体を支えるとともに、区分所有権の一画を劃す効用を果たしていると看られるのに反し、本件の場合は残された柱二本は何らの効用も果たし得なくなったといえるのである。

そうすると、本項二1のとおり金一三〇〇万円強の費用を殆ど原告会社において負担し、これを独立の不動産である本件建物に仕上げた場合については、加工に関する民法第二四六条第二項を適用してその所有権は原告会社に帰属するものといわざるを得ない。

五  以上のとおりであるから、本件建物の所有権の確認を求める原告会社の請求は理由がある。

第二、つぎに、本件土地についての賃貸借契約の存在について判断する。

一  原告会社は、本件土地について地代月額金五万円とする建物所有を目的とする賃貸借契約が成立したと主張するところ、本件建物の建立当時である昭和五八年以来月額金五万円とする契約が成立していること自体は、当事者間に争いがないと看られるところ、右第一項の事情のもとにおいては原告会社と被告との間に建物所有を目的とする地代月額金五万円とする賃貸借契約が成立していたと看ざるを得ない。

前項三2(一)(2)のとおり認識の齟齬があるにせよ、被告側において、右契約について要素の錯誤があるという主張はない。

また、前掲甲第六号証の一ないし一〇を検討しても、本件土地の本件建物の敷地以外の部分については原告会社がこれを駐車場として使用していることが認められ、証人小川勉も月額金五万円右駐車場としての使用料を含むとしてこれを容認していた旨の供述をしているのである。

その他、証人小川勉、同森下芳昇の各証言部分は、証人大石欽之助の証言、ならびに原告会社本人尋問の結果に照らしてにわかに措信し難い。

二  よって、本件建物土地につき建物所有を目的とする賃貸借契約が存在する旨の確認を求める原告会社の請求は理由がある。

第三、以上のとおりであるから、原告会社の請求はこれを認容することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第六一条を適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官宗哲朗)

別紙物件目録〈省略〉

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